『Jumplight Odyssey』アーリーアクセス版プレビュー・ただひとつの希望を抱え、何度も全滅しながら宇宙の果てを目指すローグライト・宇宙船シム

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巨大な宇宙船がクルーを引き連れて長い旅を続けている。旅の目的は異星の調査か。あるいは敵対する国への進軍か。旅でなにより重要なのは、実は宇宙船が調査したり交戦したりすることよりも仲間とのやり取りでもある。

そうした物語は『スタートレック』シリーズから最初の『機動戦士ガンダム』など映像作品では数多い。もちろんビデオゲームでも少なくない。『Jumplight Odyssey』はそうしたクルーとの宇宙船の旅を体験する、ローグライトの宇宙船コロニーシムなのだ。実際Steamストアページの説明には「1970年代に放映されていた宇宙戦艦系の壮大なスペースオペラアニメに影響」されているという(そのアニメが『宇宙戦艦ヤマト』なのか『機動戦士ガンダム』なのか、もしかしたら『SF西遊記スタージンガー』、あるいはそのすべてなのかはわからないけれど)。

現在アーリーアクセス中の本作。その全容とは、つねに全滅の危機に晒されながら、宇宙の果てにある希望を繋いでいく旅路なのである。

帝国の侵攻から逃れるための希望

宇宙を支配しようと侵攻を続けるズトパン帝国。帝国の攻撃に追いやられ、ユーフォラ王女は自らの星を脱した。彼女は宇宙船 “SDFカタリナ”に乗り込み、クルーを引き連れ、宇宙の果てにあるという “フォーエバースター”を目指す長い旅を始める。

宇宙の果てに行けば、帝国の侵攻から逃れられるのだろうか? プレイヤーはユーフォラ王女となり、ズトパン帝国の侵攻から逃れながら、クルーを運営し、宇宙船を銀河の向こうまで進めることが目的である。

ユーフォラ王女たちが旅を続ける力はただひとつ。希望だ。希望はパラメータとして常に画面に表示されており、惑星の調査などで民間人を救うことで増加する。しかし宇宙船のクルーが死亡すると希望は減ってゆく。つまり船が傷つき、クルーが何人か亡くなっても、わずかな希望さえあれば前へ進めるのだ。

プレイヤーが目の前で何十人ものクルーがせわしなく働いている。シミュレーションゲームにおける民衆は、マクロの視点でプレイするゆえにたいていは運用のための素材やコストみたいに見えがちだ。だが『Jumplight Odyssey』ではミクロの視点でよく見るとクルーのひとりひとりに個性がある。彼らをよくよく観ていれば、プレイヤーはいろいろとドラマを想像できるだろう。

そう、本作は『機動戦士ガンダム』におけるホワイトベース艦長ブライト・ノアの視点で、アムロやフロウ・ボウ、ハヤト・コバヤシたち、そして無数の整備員や補給係といったモブを眺める側面があるといえる。

クルーはそれぞれ独特な性格があったり、人間関係を築いていたりする。彼らもみんな、帝国の侵攻で同じように気を病むのか? それとも危険な宇宙船ライフでも、それなりの楽しさを見出したりしているのか? このあたりの人々を観る楽しさは、『高機動幻想ガンパレード・マーチ』から『ウォッチドッグス レギオン』などにも通じるかもしれない。

帝国に追いつかれる前に

そんなクルーらに、ユーフォラ王女は宇宙への旅を成功させるためにさまざまな指示を出す。宇宙船内は電力や水のほか、金属やプラスチック、バイオマス、そして食料といった資源によって、クルーたちの日常が回っている。これらを安定して供給できるように、温室でバイオマスを生み出したり、デブリから金属を生み出す製造機を作ったりする指示を送るのだ。

時にはクルーにスペースシャトルへ乗り込んでもらい、近くの惑星へと調査へ行ってもらうこともある。惑星の調査では資源が手に入るほか、残された民間人を助けることで “希望”を増やすこともできる。この旅では希望がなにより大事だ。だから旅のはじめには積極的に民間人を助けることになるだろう。

クルーの希望と宇宙船の資源を保ちながら、なによりも重要なのは宇宙船を別の惑星までジャンプするパワーを溜めていくことである。溜めるには一定の時間を要する。そのあいだに宇宙船の態勢を整えてゆく。

だが残念ながら旅は簡単には進まない。宇宙船の後ろにはズトパン帝国が刻一刻と迫ってくるし、安定した資源による宇宙船の運営だって難しい。気が付けば誰かが空腹になっている。のどが乾いている。絶望に苛まれてる。助けすぎた民間人によって資源が逼迫してしまう。

「全員を助けられるわけじゃないのではないか……?」プレイヤーはユーフォラ王女としてそう気づき始める。だんだんとクルーが死ぬ。希望がすり減ってゆく。

それでもなんとか宇宙船がジャンプするパワーは溜まった。せめて前へ……。しかしジャンプした先の惑星では、小惑星が降り注ぐ危険な場所だった。宇宙船を小惑星が襲う。タレットの銃撃をすり抜け、大きな岩が船体を打ち付ける。宇宙船から酸素がなくなってゆく。次々とクルーが死んでいく。希望は潰える。

そう本作の旅はかなり困難である。何度も希望を失い、宇宙の藻屑になり、いちからやり直し、少しずつ銀河の先へ進んでいく一作なのである。このあたりはローグライトのシミュレーションらしい。少しゲームの流れを覚えて先へ進めるようになったかと思えば、新しい壁が立ちふさがる。そのたびに「どうすればいいんだ?」と絶望させられる。

70年代の日本のアニメならアムロ・レイみたいなパイロットが戦況をすべてひっくり返してくれたものだ。だが残念ながら本作に都合のいいヒーローなんかいない。プレイヤーはヒーローではなく艦長として宇宙船の成り行きすべての責任を背負わなくちゃいけない。絶望のたびに反省し、また新たな宇宙への旅の糧にしていくのである。ワンゲームで希望をすべて失って終わったとしても、プレイヤーがクリアへの希望を持ち続けていれば(少しずつ宇宙船が惑星をジャンプするみたいに)少しずつゲームを進めていく喜びがあるのだ。

ブライト・ノアや沖田艦長はこの苦しみのなかで指揮していたのかもしれないな。そうしみじみと思いながら、プレイヤーはユーフォラ王女としてプレイを続ける。ただ、ある意味でラッキーであり、味気ないかもしれないなと思うのは、クルーにアムロだとかシャアだとかのように極端に癖のあるキャラが、艦内で騒動を起こすようなドラマはそこまでないことだ。ただ艦長としてプレイする以上、強烈なキャラが船内を荒らすようなイベントがあるとそれは嫌だなとも考えたりしてしまう。

とはいえまだアーリーアクセス中なので、本編リリースまでにそうしたドラマが起きるような仕様が実装されてくれればさらに面白くなりそうである。まあブタさんがでてきて、ちょっとした事件は起こすんだけど。

開発 League of Geeks
パブリッシャー League of Geeks
発売日2023年8月22日(アーリーアクセス版)
価格
対応機種STEAM
葛西祝
WRITTEN BY

葛西祝

ジャンル複合ライティング。ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、スポーツや格闘技、美術や文学を越境するテキストを作り続けている。